“セシウム花粉”の恐怖…濃度は原発“汚染土”の3倍
2012.02.25
花粉症の憂鬱な季節が間近に迫っている。今年は福島第1原発事故にともない、放射性物質に汚染された「セシウム花粉」が広範囲に飛散するからやっかいだ。恐怖のスギ花粉は被曝によって人体にどのような影響を及ぼすのか。また、吸い込まないための防御法はあるのか。
農林水産省は今月8日、スギ雄花に含まれる放射性セシウム濃度の調査結果を発表した。調査は昨年11月下旬から今年の1月末まで、福島県や東京都、神奈川県など東日本の15都県に広がる182カ所のスギ林で実施。最高値を示したのは福島県浪江町の小丸地区で、1キロあたり25万3000ベクレルだった。
これはどれほどの濃度なのか。例えば福島第1原発では放射性物質を含んだ水が大量に流出したことで、海底土が汚染された。5−6号機前の海中から取り出した土からは、1キロあたり9万ベクレルの放射性セシウムが検出された。浪江の花粉は、原発付近の汚染土より3倍近くの値を示したことになる。
セシウムは体内に入ると筋肉などにたまり、がんの原因になる。セシウム134の半減期は2年ながら、同137は30年と長く、悪影響が長期間に及ぶ。
スギ花粉に放射性物質が蓄積される仕組みについて、日本大専任講師の野口邦和氏(放射線防護学)は「葉に付着した放射性物質が雄花の花粉を汚染する。スギは落葉樹ではなく常緑樹で、葉が生え変わるまで4年程度かかる。スギ花粉の汚染はしばらく続いてしまう」と解説した。
農水省では最高値を示した浪江町小丸のスギ花粉が、関東地方で記録した過去9年間の最大値(1立方メートルあたり2207個)で飛散したという、最悪のケースを想定。その空気を吸い続けた場合、花粉が飛散する2−5月の内部被曝線量は累計0・553マイクロシーベルトになると試算した。1時間あたりでは0・000192マイクロシーベルト。白血球を一時的に減少させる25万マイクロシーベルトからみても、かなりの余裕がありそうだ。
セシウム花粉は本当に恐怖の敵なのか。
「農水省の発表は最悪のケースを想定したもので、実際の被曝量は100分の1、1000分の1程度になるだろう。福島県外の濃度は軒並み低い。また、東京周辺まで福島のスギ花粉が飛んでくるとは考えにくく、多くは北関東や山梨、高尾山周辺のもの。結論を言えば、何もしなくて大丈夫、ということになる」(野口氏)
福島発のスギ花粉は北関東まででとどまるとみられる。それでも気になるならば、マスクを着用すれば問題はないそうだ。スギ花粉の大きさは1粒が30マイクロメートルで、市販のマスクなら3マイクロメートルの粒子をブロックできる。「もっとも、マスクを着けなくとも危険度に変化はない。ただ、マスクによって安心感を得られるのなら、人によって効果があるのかもしれない」(同)と、つまりは“気休め”程度のものらしい。
日本気象協会によると、東日本での花粉飛散量予測はほぼ平年並み。非常に飛散数が多かった昨年より大幅に減るとみられるのも安心材料だ。
最後に野口氏が警告した。
「セシウム花粉が人体に影響を及ぼさないことは数値で証明されている。それでも危険性をあおる専門家がいたら、脱・原発の信条にこだわっているか、よほど知識がないのか、どちらかだ。私も原発には反対だが、科学で明らかになったことは正確に伝えなければならない」
事実をねじ曲げる見解には惑わされないようにしたい。